私は映画「007」が好きで、主人公「ジェームズ・ボンド」のファッションを参考にしています。
ただ彼の着用するアイテムはどれも一流品で庶民の私には手を出しづらいものばかりです。
そんな中第23作目の「スカイフォール」に登場したトムフォードのサングラスは、少ない月給の中でも捻出できる価格で自分へのご褒美として同作に登場したモデルと同じものを購入しました。
ある日トムフォードのサングラスをしてドライブに行き、湖を見下ろせる見晴らしの良い高台で休憩していると近くにいた中年の男性に話しかけられました。
振られた話題はトムフォードのサングラスのこと。
007と同じモデルなのが目につき、つい声をかけたのだと言います。
男性もまた007の愛好家で、話はサングラスから映画に変わり盛り上がること30分。
つい話し込んでしまい、そろそろ帰る旨を伝えると男性は007の話ができる相手が欲しかったとうことで、今度お酒の席で語り合わないかと持ちかけられました。
そこで渡された名刺には、ある有名企業の代表取締役という文字が。
私は一瞬物怖じしたものの、そんな人が自分の相手をするはずもないと話半分で連絡先を渡しその場を離れました。

それから数日後Sさん、つまりあの男性から電話が入り今晩行きつけのバーで飲まないかとお誘いがありました。
あまりに急なことで咄嗟に承諾してしまい、電話を切ってから我に帰ってすぐにバーの名前をネットで検索。
出てきたのは一杯数千円のカクテルを出すオーセンティックなバー。
トムフォードのサングラス以外に身なりで自慢できるものはなく、とにかく持っている限りで一番高いスーツを着て約束の場所へ向かいました。
Sさんは先に待っていたようで、私の姿を見つけるや否や嬉しそう笑顔に。
しかし近づいて私の胸元からつま先まで見やると、少し怪訝そうな顔をして「英国紳士たるもの、もう少し身なりに気を遣ったほうがいい」などと、冗談なのか本気なのかわからないことを言いだしました。
私はSさんに促されるまま、とあるスーツ店へ。そこでなぜかSさんコーディネートの元私のファッションショーが始まりました。
嘘のような話ですが、Sさんは私に着せて自分が一番気に入ったスーツをその場でプレゼントしてくれました。
仕立てに時間がかかるので、その日はもともと着ていたスーツで約束のバーに到着。
シックで落ち着いた店内と、大人びたジャズが印象的でしたが緊張のあまりすぐに酔いが回ってしまい、あまり話の内容や高級なカクテルの味は覚えていません。
ただボンド・マティーニを飲んで強烈だったのは記憶に残っています。
深夜を回る前に解散し、後日また会う約束をしました。
本当に夢のような1日で未だに信じられませんが財布に入っていたスーツの受け取り票が現実だと教えてくれます。
まさかサングラスひとつで想像もしなかった体験が自分の身に起こるとは。
月並みですが人生って何が起こるかわかりません。